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Jaisingh Nageswaran ジャイシング・ナゲシュワラン

I Feel Like a Fish

KG+SELECT Award 2023 Winner

キュレーター:パスカル・ボース
セノグラファー:木村俊介 (SSK)、小寺磨理子 (AMK)

ジャイシング・ナゲシュワランは、自宅にある水槽の中の魚を見るたびに、自分自身を見ているようだと言います。魚には向こう側に広がる世界が見えています。しかし生きるのに適切だと思われるその世界に魚が触れようとすると、目の前に壁が立ちはだかります。魚が生きて水槽から出るためには、奇跡を起こさなければなりません。インドのカースト制度は、そのような金魚鉢を数多く生み出しています。そしてカーストが低いほど、鉢のサイズは小さくなります。

ジャイシングの祖母は、タミル・ナードゥ州の小さな村、ウシランパッティの出身でダリット系の家庭に生まれました。ダリットは数千年前から続くインドのカースト制度の最下層の人々のことで、「触れてはならない」カーストとして知られ、差別、排除、暴力に直面しています。そこで彼女はヴァディパッティに引っ越して、学校のないダリットも通えるような小学校を設立しました。彼女はナゲシュワラン家の最初の奇跡でした。のちにジャイシングもこの小学校に通いました。
ジャイシングが写真家になろうと決めたとき、自分のカーストを捨て、ダリットであることを忘れるための唯一の方法は、都会に出ることだと考えました。父親は、差別が彼につきまとうだろうと警告しました。
長らくジャイシングは自分を第2の奇跡だと考えてきました。国際的な都市を転々とし、著名人を撮影し、映画の道へも進みました。しかし、写真を撮れば撮るほど、彼はダリットがインドの視覚的意識の中にほとんど存在しないことに気づきました。そしてある日突然大病を患い貯蓄がなくなり、コロナウイルスにより故郷に戻ることを余儀なくされました。

今、ジャイシングは自分が生まれ育った土地の美しさを目の当たりにして、写真家としてキャリアを積んだはずの自分が持ち合わせていなかった親密なつながりを実感しています。そうして気が付いたのです──自分が今、この世でいちばん失いたくないものは、家族と家なのだと。そしてこう語ります。
「私はもっと深く、金魚鉢の中に入ってしまったのです。私の仕事は、ダリット・コミュニティにおける現在進行形の残虐行為を訴えることです。私は毎日のようにダリット・コミュニティの人々が殺されたり、カーストに基づく様々な残虐行為を目撃したりするニュースで目を覚まします。アートを通じ私に生み出された意識には、もっと深い物語があることを実感しています。カースト制度が根絶される日が来るまで、私は金魚鉢の中の魚のように感じ続けるでしょう」

©︎ Takeshi Asano-KYOTOGRAPHIE 2024

©︎ Takeshi Asano-KYOTOGRAPHIE 2024

©︎ Takeshi Asano-KYOTOGRAPHIE 2024

©︎ Takeshi Asano-KYOTOGRAPHIE 2024

<span class="u-italic400">The fish tank</span>
© Jaisingh Nageswaran

The fish tank © Jaisingh Nageswaran

<span class="u-italic400">My portrait of my father, P Nageswaran</span>
© Jaisingh Nageswaran

My portrait of my father, P Nageswaran © Jaisingh Nageswaran

<span class="u-italic400">My nephew’s hands in mine</span>
© Jaisingh Nageswaran

My nephew’s hands in mine © Jaisingh Nageswaran

Virtual Tour バーチャルツアー

artist アーティスト

Jaisingh Nageswaran ジャイシング・ナゲシュワラン

タミル・ナードゥ州ヴァディパッティ村(インド)出身。独学で写真を学ぶ。労働者階級で育ったという生い立ちを乗り越えるように祖母から教育を受ける。社会から疎外されたコミュニティの生活を写し取ることに重点を置き、ジェンダー・アイデンティティやカースト差別、農村の問題をテーマとした作品を発表している。パンデミックの中では自身のルーツに立ち返り、幼少期の記憶や4世代にわたる家族の歴史を記録しながら、ダリット(ヒンズー教のカースト制度の最下層民)のレジスタンス(抵抗)とレジリエンス(回復)に焦点を当てている。彼の作品は個展やグループ展で世界中で紹介され、Serendipity Arts Foundationの助成金やアルル国際写真祭の助成金を受けている。またマグナム財団のPhotography and Social Justice Fellowshipにも選出されている。2023年には第13回アフリカ写真ビエンナーレでプロジェクト「I Feel Like a Fish」が紹介され、KYOTOGRAPHIEでKG+ SELECT 2023グランプリやフランスのケ・ブランリ美術館のJacques Chirac写真賞などを受賞している。

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