2024.04.13 - 05.12

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Yuriko Takagi 高木由利子

PARALLEL WORLD

Presented by DIOR

グラフィックデザインとファッションデザインを学び、ヨーロッパでファッションデザイナーとして活動していた高木由利子は、何度か訪れたモロッコで写真に開眼します。

本展のタイトル「PARALLEL WORLD」とは、共時的に存在する二つの世界のことを指し、高木は二条城 二の丸御殿台所・御清所にて二つのシリーズをパラレルに展示します。一つは、日常的に民族衣装を着ている人達を12カ国で撮影したプロジェクト〈Threads of Beauty〉。もう一つはDIORのために撮り下ろした新作や、ポール・スミス、イッセイ・ミヤケ、ヨウジヤマモト、ジョン・ガリアーノなど80年代から現代までのファッションを撮影したシリーズです。高木が旅で出会ったイランのノマドは、自分が愛おしく思う服を移動できる分だけ大切に所有し、移動の時にはすべての服を重ねて着飾っていたそうです。

また、今回展示されるDIORの作品の服はすべてオートクチュールであり、オーダーするクライアントの情熱と作り手側の真剣なクラフトマンシップが織りなす服の美しさは格別だったと高木は言います。それは一見ノマドの人たちの装いとは全く別世界のようですが、高木はこの二つの世界に共通の愛を感じました。

本展では、オリジナルプリントと共に特大サイズのデジタルプリントが展示されるほか、高木自身がプリントに着色した作品や、印画紙、和紙、コットン紙、漆喰など異なる素材にプリントされた作品が展示されるなど、多彩な写真表現とともにその領域の奥深さにも迫ります。

「ファッションも写真も、人に夢を与えてくれると信じている」と高木は語ります。来場者が「PARALLEL WORLD」に存在する二つの世界を行き来し、そのBORDER(境界線)がまじわり溶けるとき、服とは、写真とは、幸せとは何かという、日常に潜む根源的な問いと対峙することでしょう。

展示風景  ©︎ Kenryou Gu-KYOTOGRAPHIE 2023

展示風景 ©︎ Kenryou Gu-KYOTOGRAPHIE 2023

Left: ©︎ Yuriko Takagi / DIOR, Right: ©︎ Yuriko Takagi

Left: ©︎ Yuriko Takagi / DIOR, Right: ©︎ Yuriko Takagi

GATEWAY, Yuriko Takagi × Nanao Kobayashi, Japan, 2023 ©︎ Yuriko Takagi

GATEWAY, Yuriko Takagi × Nanao Kobayashi, Japan, 2023 ©︎ Yuriko Takagi

ISSEY MIYAKE 1995 S/S ©︎ Yuriko Takagi

ISSEY MIYAKE 1995 S/S ©︎ Yuriko Takagi

India, 2004 ©︎ Yuriko Takagi

India, 2004 ©︎ Yuriko Takagi

Virtual Tour バーチャルツアー

artist アーティスト

Yuriko Takagi 高木由利子

Special Interview|高木由利子

2023年1月23日zoomにて
(インタビュー:鮫島さやか 構成:田附那菜)

高木由利子「PARALLEL WORLD」Presented by DIOR 二条城 二の丸御殿 台所・御清所 ©︎ Kenryou Gu-KYOTOGRAPHIE 2023

ファッションと民族衣装、二つの世界

──まず最初に、写真との出会いについてお聞かせいただけますか。

高木:さかのぼりますね(笑)。私はグラフィックデザインとファッションデザインを学び、ファッションデザイナーとして活動していました。写真は完全に独学です。趣味としてフィルムカメラを手に取り、撮影から暗室で現像する工程まで自分一人でできることが楽しくて。ただ、当初の被写体はファッションではありませんでしたし、将来写真家として生きていくなんて全く想像もしていませんでした。

──どのようなきっかけでファッションを撮影されるようになったのでしょう。

高木:ポール・スミスのパートナーが私のファッションの先生だったこともあって
ポールが日本でブランドを立ち上げる時、「カタログ掲載用の写真を撮ってくれないか」と依頼があったのですが、ファッションの撮影をしたことがなかったので一度は断りました。ポールに「景色を撮るのと同じだよ」と説得されて、半信半疑で撮り出したのが始まりです。

──そうなんですね。では、今回KYOTOGRAPHIEで展示される作品について教えてください。

高木:展覧会の題名は「PARALLEL WORLD」です。パラレルワールドは、同時多発的に存在する二つの世界のことを指します。今回の場合は一つはファッション写真の世界、もう一つは、民族衣装を日常的に着ている人たちの世界です。会場となる二条城の台所・御清所では、ポール・スミスを初めイッセイ・ミヤケ、ヨウジヤマモト、ジョン・ガリアーノ、現在東京都現代美術館で会期中の「クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ」展のために撮り下ろした写真と、日常的に民族衣装を着ている人達を撮影したプロジェクト「Thread of Beauty」が展示される予定です。

──地域も民族も時代も網羅した、クロニクルのような展示になりそうですね。
ところで、どのような経緯で民族衣装に着目されることになったのでしょうか。

高木: 1994年くらいから、ファッション業界では「スーパーモデル」という存在が出現しました。その当時、どの雑誌を見てもスーパーモデルのオンパレードで、服と人間の関係性が疎外視されているように感じました。そこで、「自分なりのスーパーモデルを探す旅に出かけよう」と思い立ち、三宅一生さんのプリーツプリーズ、ひびのこづえさん、の服や衣装をお借りして、旅して出会った人々に着ていただくプロジェクトが始まりました。

──合計何ヶ国くらいで撮影されたんですか?

高木:十数カ国だと思います。約6年間で、総計700点くらいの洋服を持って地球中をウロウロしていました。その時は、世界各地の方々に、私が持って行った服を着ていただいて撮影することが目的で、彼らが元々着ていた服は一切撮影しませんでした。ところが、ある時、親しい友人に「世界中の民族衣装を着る人々が減少しているからあなたが今記録すべきだ」と言われて、ハッとしました。確かに、冠婚葬祭以外で民族衣装を着る人々は近年急激に減っています。また、旅をしていて、同じ場所に行っても、前の年は民族衣装を着ていたのに、次の年に行くと既にジーンズとTシャツに変わってしまっている光景に愕然としました。そこで、民族衣装を着る人々を12カ国で撮影したプロジェクトが「Threads of Beauty」です。

Left: Maria Grazia Chiuri for Christian Dior, Haute Couture SS 2021 Christian Dior, Designer of Dreams. Model: Saki Kuwabara ©︎ Yuriko Takagi / DIOR
Right: Threads of Beauty, India, 2004 ©︎ Yuriko Takagi 

パラレルワールドを体感する展示空間

──多層的な作品がどのように展示されるのか気になります。

高木:今回の二条城のscenographyは建築家の田根剛さんにお願いしました。彼と何度かブレーンストーミングを重ねてどのようにパラレルワールドを表現しようかと言う点でとても悩みましたが、来場者が空間内で気がついたら、どちらの世界にいるか分からなくなっても良いような構想にしても面白のではないかということになりました。

展示されているのが民族衣装なのか、ファッションなのかをはっきりさせずに、パラレルワールドを行ったり来たりできるようにしたいな、と。というのも、私たちが生きている社会では、民族衣装の世界も商業的な服の世界も同時に存在しているからです。私はこの両方を経験しているので、行き来する感覚を皆さんにも体験していただきたいなと思っています。

──来場者がその両方を行き来するにはどうすればいいのでしょうか。

高木:パラレルワールドを行き来できるGATEWAY(ゲートウェイ)を作る予定です。その役目を果たすのが、今回KYOTOGRAPHIEのために撮影した、小林七生さんとのコラボレーションの写真です。この作品はどちらの世界にも属していなくて、まさにゲートウェイ。そこを通らないと行き来できないイメージです。

──「帰れなくなったらどうしよう」と思って少しゾクッとしますね(笑)。

高木:元の世界にちゃんと戻れますから大丈夫です(笑)。

GATEWAY, Yuriko Takagi × Nanao Kobayashi, Japan, 2023 ©︎ Yuriko Takagi 

人と服の一体感、境界線を超えて

──衣服やファッションとは、高木さんにとってどんな存在ですか。

高木:元々、服は民族の風土や伝統から生まれてきたものですから、意識をしなくてもその民族のアイデンティティや誇りの象徴でした。その後、民族衣装を着る機会が減った私たちは、何を着てもよくなり、ある意味解放されました。と同時に自分のアイデンティティを示す方法を自分で選択しなければならなくなりました。これはある意味、人生に大仕事が増えたわけですが、服一つで気分さえ変えることが出来るのですから、人生を楽しむ最高のツールを私たちは手にしたとも言えるのです。

──17年間の海外生活での様々なご経験や人々との出会いは、今の高木さんのファッションへの考え方にどのように影響を与えていると思われますか。

高木:私は40代になってから僻地に行き出したのですが、そこで大地と共に生活をしている人たちに出会い始めた時に、人と服が一体に見えて「格好いいと言うことは、この様な事を言うのだ」と思ったんですね。例えば、僻地には鏡のない生活をしている人たちがいます。プリーツプリーズに着替えてもらった時、手でシャシャッと服を整えているだけなのに、様(さま)になっている。それが最初とても不思議でした。でも、都会にも「この人格好いいな」っていう人はもちろんいて、そういう人たちは、ブランド物を着ていようが、無印を着ていようが先ずその人の全体像が目に入ってきて、次に服に目が行く、つまり顔と服に境界線がない人達だと言うことに気付きました。それは、その人の生き様や思考も含めて何かはっきりとは分かりませんが、服も所作も人として一体感のある人が格好いいと感じさせるのだと思います。

ISSEY MIYAKE, SS 1994-95 ©︎ Yuriko Takagi 
Threads of Beauty, India, 2004 ©︎ Yuriko Takagi

愛おしさと共に生きる幸せの見つけ方

──KYOTOGRAPHIEでは、オリジナルプリントも展示されると伺いました。どのような作品が展示されるのでしょうか。

高木:Gap Japanという雑誌のカバーストーリーの企画で、毎月一人のデザイナーを特集していた時のことですが、当時、カラー写真がどうしても好きになれず、モノクロで撮影して、暗室でプリントしたものの上に手で着色(編集注:人工着色写真)をすることにハマっている時期がありました。その人工着色の作品が最近発掘されたので展示することにしました。会場では、大きく拡大したデジタルプリントとオリジナルプリントの両方のスケールで展示します。また、大きさだけでなく、印画紙、和紙、コットン紙、布など素材の違う物にもプリントする予定です。時代の変化を受け入れて、デジタルプリントという新しい技術も駆使しつつ、オリジナルプリントを間近で見られるようにして、「写真とは?」と言う根源的な問いかけもできたらと思っています。

──そう考えると写真は領域が本当に広いですよね。時代や社会の変化と言えば、コロナ禍で身の回りの状況が大きく変わりました。高木さんが現代社会について思われることがあればお伺いしたいです。

高木:コロナ禍は、各々が自分の生活を見直すきっかけになったと思います。私たちの社会は、物や情報が氾濫しています。「断捨離」とよく言われますが、私は物が悪いのではなく、好きなものに囲まれて生活すべきだと思います。服は、「衣食住」の一番上にある様に、私たちの生活にとって重要不可欠なものです。自分にとって何が大切で、何が好きで、何を着たら幸せになるか、ということを、自分で知り、自分で感じることが必要になってきたと思います。旅をしていた時、イランで移動中のノマドの人たちに出会いました。彼らの全財産は移動できる量です。テントを設営して荷解きが始まると、自作の絨毯でできた鞄の中からピカピカのお鍋や人数分のカトラリーなどを出してテント内に飾りました。ミニマリズムが美しいのではなく、生活に必要なもの全てが丁寧に扱われていて、本当に愛おしい物に囲まれて生活している様が美しいと感じました。服もたくさん持っていないので、移動する時に全部重ね着してしまう。移動する時だけたまに他の人に遭遇するので、思いっきりおしゃれして。こういう愛に溢れた生活から、私たちが忘れかけているシンプルだけど大切なメーセージを受け取りました。

──自分の好きなものと共に生きることが、愛しさや幸せにつながるんですね。

高木:はい。また、今回展示するディオールの写真の服は全部オートクチュールで、注文した人のために作るのですが、クライアントの情熱と作り手側の真剣なクラフトマンシップが織りなす服の美しさは格別です。それは、ノマドの人たちの装おいとは全く別の世界のようですが、私はこの二つの世界には共通の愛を感じました。

──最後に、KYOTOGRAPHIEの来場者の皆さんにメッセージをお願いいたします。

高木:ファッションも写真も、人に夢を与えてくれると信じています。それぞれがどういう世界に、どういう夢を探せるかを考えながら、来場者の皆さんには、パラレルワールドを行き来することで、自分にとって服とは、写真とは、幸せとは何か、ということを考えていただければとても嬉しいです。

東京生まれ。武蔵野美術大学にてグラフィックデザイン、イギリスのTrent Polytechnicにてファッションデザインを学んだ後、写真家として独自の視点から衣服や人体を通して 「人の存在」を撮り続ける。近年は自然現象の不可思議にも深い興味を持ち、「chaoscosmos」というプロジェクトにて映像を含め新たなアプローチに挑戦し続けている。撮影地は、日本を拠点に、アシア、アフリカ、南米、中近東に及ぶ。

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