2024.04.13 - 05.12

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César Dezfuli セザール・デズフリ

Passengers 越境者

毎年、何千人もの人々が、アフリカ沿岸からヨーロッパを目指して命がけで地中海を渡っています。2016年の夏、デズフリは、ドイツのNGO団体「ユーゲント・レッテト」が所有する元漁船の難民救助船イウヴェンタ号に3週間にわたって乗船し、リビアからイタリアへ渡航する地中海中央部のルートで、難民たちを助け出す救助船の様子を記録しました。

8月1日、リビア沖20海里を漂流するゴムボートから118名の難民が救出されました。デズフリは、この救出劇に名前と顔をつけて一人ひとりに人格を与えるため、救出されたばかりの乗客全員のポートレートを撮影します。その後彼らはシチリア島のポッツァーロ港で下船します。

難民の現実を記録し、統計からは決して明らかにならないアイデンティティを証明したいという思いから、デズフリは次のステップに進みました。難民たちを主人公とした物語が語られる必要がある、と考えたデズフリは、救助された難民たちを探し出し、彼らの物語を紐解く作業に取りかかったのです。なぜ祖国を離れようと思ったのか。旅の途中で何があったのか。イタリア到着後、彼らはどのような人生を送っているのか。

政治的な理由や経済的な理由、感情的な理由、伝染病、家族の問題、移民の群れに紛れ込んでの逃避行、あるいは旅をして新たな経験をしたいというシンプルで人間的な願望──難民たちの動機は様々なものでした。慎重な検討を重ねた末の決断もあれば、突発的な思いつきというケースもあります。西アフリカ各国からリビアへと、難民たちの足跡を辿る中で、人権侵害の実情も明らかになりました。

難民たちの証言は、移住先のヨーロッパで彼らが直面する現実をあらわにします。当局の動きは鈍く、数年間も待たされ、社会への適応を妨げられることもあります。政府からの無回答や難民申請の却下により難民は国から国へヨーロッパ中をさまよい続けることも余儀なくされます。

難民たちがどの国を目指すかは、話せる言語や知人のネットワーク、就職に関する口コミなどによる場合もあれば、偶然のなりゆきで決まる場合もあります。イタリア、フランス、ドイツ、スペイン、オランダなどが一時的な滞在国となることが多く、正式な処遇が決定するまでイタリア国内の収容施設に滞在し続ける難民も数多くいます。

「Passengers」は難民たちの物語の記録であり、難民への理解を深め、その苦境が忘れられることのないよう事実を後世に伝える、一大ドキュメンタリーなのです。

展示風景  ©︎ Kenryou Gu-KYOTOGRAPHIE 2023

展示風景 ©︎ Kenryou Gu-KYOTOGRAPHIE 2023

ギニア・コナクリ出身のアルファ。(1999年生)。<br>
左:2016年8月1日、地中海の救助船上で撮影。<br>
右:2019年2月8日、イタリア・ラマッカで撮影。<br>
© César Dezfuli

ギニア・コナクリ出身のアルファ。(1999年生)。
左:2016年8月1日、地中海の救助船上で撮影。
右:2019年2月8日、イタリア・ラマッカで撮影。
© César Dezfuli

2022年1月13日、テリミレ(ギニア)。
アブドゥールが埋葬された故郷の土に触れるラマラナ。<br>
ラマラナの兄弟アブドゥールは、2019年1月23日にイタリアで亡くなった乗客の一人。アブドゥールの遺体は祖国に送還され、自宅から数メートルのところにあるテリミレの墓地に眠っている。©︎ César Dezfuli

2022年1月13日、テリミレ(ギニア)。 アブドゥールが埋葬された故郷の土に触れるラマラナ。
ラマラナの兄弟アブドゥールは、2019年1月23日にイタリアで亡くなった乗客の一人。アブドゥールの遺体は祖国に送還され、自宅から数メートルのところにあるテリミレの墓地に眠っている。©︎ César Dezfuli

救助されたゴムボートの乗客118人のポートレートのリスト。2016年8月1日、地中海にて。 © César Dezfuli

救助されたゴムボートの乗客118人のポートレートのリスト。2016年8月1日、地中海にて。 © César Dezfuli

Virtual Tour バーチャルツアー

artist アーティスト

César Dezfuli セザール・デズフリ

1991年、スペイン・マドリッド生まれ。ジャーナリスト、ドキュメンタリー写真家。移民、アイデンティティ、人権問題に関連するテーマの作品を多く発表している。2015年以降はヨーロッパ国境における移動のムーブメントに注目し、特に中央地中海の移民ルートに焦点を当てている。デ・フォルクスクラントやル・モンドに頻繁に寄稿しているほか、ガーディアン、タイム、BBCなど、さまざまなメディアで作品が紹介されている。近年では、世界報道写真コンテスト2023のヨーロッパ地域賞のほか、Sony World Photography Awards(ソニーワールドフォトグラフィーアワード)やTaylor Wessing Portrait Prizeなどの写真賞を受賞している。世界各地で開催される個展やグループ展に参加し、ナショナル・ポートレート・ギャラリー(英国)、シドニー博物館(オーストラリア)、UICA(アメリカ)などでも作品が展示されている。

curator キュレーター

Almudena Javares アルムデナ・ハヴァレス

インディペンデント・キュレーター、アーティスティック・プログラマー、カルチュラル・マネージャー。パリ第8大学にて国際文化プロジェクト学修士、マドリード・コンプルテンセ大学にて文学研究学修士を取得。欧州およびラテンアメリカの各国で、様々な分野のスペースやプロジェクト、フェスティバルのアーティスティック・プログラマー、キュレーター、カルチュラル・マネージャーを務める。スペインの「Fundación Contemporánea」および「La Fábrica」(スペイン)のフェスティバル・展覧会部門ではPHotoEspañaの立ち上げに参画。「Noche de los Libros」(マドリード)や「Fête du Livre de Var」(フランス)、「Eñe Madrid Festival」、「Eñe América Festival」などのプロジェクトでコーディネーターを務めた。また、舞台美術やビジュアルアートを専門とし、優れた写真ギャラリーを持つブエノスアイレス大学文化センターのアーティスティック・プログラムのコーディネーター、スペイン文化センター(ブエノスアイレス)のカルチュラル・マネージャー、スペインにおける国際的文化交流の振興と協力推進を専門とするスペイン国際開発協力庁の文化・科学交流理事会委員などを歴任。文化、ジェンダー、人権を専門とする様々な非政府組織にも関与している。フリーランスのキュレーターとしても、スペイン、アルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイ、チリ、ペルーなど各国において、写真、アート、パフォーミングアーツ、文学に関連する様々なプロジェクトに参画してきた。現在は博物館学および博物館学芸員の分野に深く関わっている。

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