Boris Mikhailov ボリス・ミハイロフ
Yesterday’s Sandwich
In collaboration with the MEP, Paris (Maison Européenne de la Photographie)
2020年の片山真理の個展「home again」(翌年KYOTOGRAPHIEからMEPに巡回)、2021年のグループ展「Women Artists from the MEP Studio」、2022年のアーヴィング・ペンの個展に続いて、MEP(ヨーロッパ写真美術館)が再びKYOTOGRAPHIE京都国際写真祭とタッグを組みます。今回展示するのは、ボリス・ミハイロフによるスライドショー「Yesterday's Sandwich(昨日のサンドイッチ)」です。本展は、2022年にMEPで開催されたミハイロフの大規模な回顧展を受けた内容となります。
ボリス・ミハイロフは1938年にウクライナのハルキウで生まれました。同時代を代表する写真作家であるミハイロフの仕事は常に先進的で、ドキュメンタリー写真からコンセプチュアルな作品、絵画、さらにはパフォーマンスまで、多岐にわたっています。半世紀以上もの間、ミハイロフは母国がソビエト社会主義体制に浸食されるのを間近で見ていました。ミハイロフが写真を通して構築する物語は間違いなく、今日の時事に対する新たな視座を私たちに与えることでしょう。
「Yesterday's Sandwich」は、ミハイロフがアーティストとしてのキャリアをスタートさせて間もない1960年代末から1970年代にかけて制作された作品です。社会主義体制のソ連では発表することができない写真のシリーズの中の2枚のスライドフィルムがミスによってくっつき、重なり合ってしまったことがこの作品の原点となりました。偶然が生み出す効果に魅了されたミハイロフは、都市の風景や軍事パレード、女性のヌードなどが偶発的に組み合わされ、詩的な対比を描き出すスライドショーを数多く制作したのです。それは、ソ連の全体主義的政治体制が人々の日常生活に及ぼす影響を浮き彫りにする作品でもありました。
本展が開催される今もなお、21世紀という時代にはまさか起こるはずがないと誰もが思っていた軍事侵攻がウクライナの地では続いています。ボリスと妻のヴィタの出生地である都市ハルキウも、この戦争によって大きな被害を受けました。その事実が、この展覧会をより一層鋭く痛切なものにしています。画面に捉えられた被写体と作家の間に結ばれていた感情的・政治的な関係性は、この戦争によって取り返しのつかないかたちで変質してしまいました。戦争という悲惨な状況において、私たちは、ウクライナの人々を支援し、また危機に瀕しているウクライナの文化を国内外で支援する必要に迫られています。そうした中でミハイロフの作品を展示することは、特別な意味を持ちます。優れた感性と独創性を持つ一人のアーティストの目を通して語られる「Yesterday's Sandwich」は、逆境に立ち向かい、強く生き抜くことの意味を私たちに示し続けている人々に捧げる讃歌なのです。
「Yesterday's Sandwich」はMEP(ヨーロッパ写真美術館)との共同企画により開催される展覧会です。 MEPとKYOTOGRAPHIEは、本展の実現に惜しみない協力をいただいたボリス・ミハイロフ氏とヴィタ・ミハイロフ氏に心より感謝申し上げます。
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アーティスト
Boris Mikhailov ボリス・ミハイロフ
1938年ウクライナ・ハリコフ生まれ。独学で写真を学び、ソビエト連邦の崩壊に伴うウクライナの激変とその悲惨な結末を、1960年代から心に残る記録として残した。エンジニアとして教育を受け、就職した国営工場にて記録のためにカメラを渡される。そのカメラで妻のヌード写真を撮影し、KGBの工作員に見つかって解雇される。その後、ソ連流の暮らしを普及すべく理想化されたプロパガンダのイメージに反発し、本格的にカメラを手にすることを決意。ジャンルにとらわれることなく数多くの作品を制作し、独自の芸術表現を構築していった。ボリス・ミハイロフと妻のヴィータは、ベルリンとハリコフを行き来して暮らしている。2022年、パリのヨーロッパ写真美術館にて大規模な回顧展が開催された。